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くん製品

花

歴史、文化

くん(燻)製とは、魚介類などの食材を燻(いぶ)すことで独特な香りを生み出し、貯蔵性を高める食品保存の知恵である。原料を前処理し、くん材で燻すため、原材料に煙が浸透し、特有の香りと色が付与される。また、原料から水分が取り除かれ、くん煙の揮発性成分が原料の表面に付着することで、腐敗防止、酸化防止の作用が高まる。
くん製の製法が日本に伝わった時期は、江戸時代に魚介類を中心にくん製品を食する文化が根付いたなど諸説あるが、その歴史は定かではない。なお、日本国内には、魚の内臓、血液、エラを除いたものを塩漬けにし、酒、砂糖、醤油などで味を調えて乾燥させたものが多い。
なお、くん製品は畜産品を原料とするものもあるが、それらは15 畜産加工品(肉類、卵、乳製品、はちみつなど)で紹介する。

特徴、種類

以下、代表的なくん製品の特徴を紹介する。

<さけくん製>
アイヌ民族がさけを炉端の上につるし干した「ラカン」が原形と言われている。明治時代以降、北海道水産試験場が欧米の製造技術を導入し、試作、指導を行い、その普及に努めた。さけくん製は冷くん法で製造されるものが多い。
乾燥度の高いものが主体で、原料のさけを三枚におろしたフィレー形態の製品が主流である。主原料は紅さけで、しろさけ、さくらます、ますのさけでもつくられる。 

<とびうおくん製>
主に東京都の八丈島、鹿児島県の種子島、屋久島地方で製造される。発祥は東京都新島のとびうおの塩干しとの説がある。
なお、日本国内には、30種類のとびうおが生息すると言われている。くん乾(乾燥)期間は比較的短く、保存性はそこまで高くないため、真空包装された形で販売されることが多い。食感はやわらかく、独特の風味を楽しむことができる。 

<なまり節>
かつおのフィレーを煮熱(しゃじゅく)して骨を除去したもの、あるいはガスまたは電熱を利用して焙焼(ばいしょう)し、製造する。
本節のいぶし工程で行う一番火で加熱した節をなまり節、生節と呼ぶ。「生を利用する」ことに基づいた「生利」が語源とされている。現在は脱気包装し、加熱殺菌したものが流通する。 

製造方法

くん製品の製法は大きく分けて、冷くん法と温くん法、調味温くん法の3つに分けられる。

<冷くん法>
長期保存を目的とした製法である。調理、塩漬け、脱塩、風乾、くん乾(あん蒸)の手順で加工する。くん乾の温度は15~30℃で、期間は1~3週間と長い。水分が少ないため、保存性が高まるが、肉質が硬くなりやすいのが特徴である。

<温くん法>
調味を目的とした製法である。調理からくん乾までは冷くん法と似ているが、くん乾の温度は30~80℃と高く、くん製時間は1~6時間と短い。水分が多く、保存性は低いが、香味が付与され、肉質が軟らかく仕上がる。

<調味温くん法>
製法は温くん法と同じであるが、調味してからくん乾するため、原料のうま味とくん乾の風味が熟成されることで、嗜好(しこう)性が向上する。

地域との関係性

日本における水産物のくん製品の生産量は、令和3年度の水産加工統計調査(農林水産省)によると、水産物加工品全体約143万tのうち、約7千tで全体の0.4%程である。さけ、ます、にしん、いか、ほたて、かき、うなぎ、たこ、ふぐ、ぶり、とびうおなどを原料に、それぞれの土地の嗜好性に根ざしたさまざまな名産品が継承されている。

サステナビリティ・SDGsへの貢献

「果樹の剪定枝(せんていし)や廃材をくん材に再利用する」「原料に水産品販売・流通における未利用魚を活用する」などの取組が行われている。(14海の豊かさを守ろう、15陸の豊かさを守ろう)

参考文献

岡弘康、坂本正勝、保聖子、野村明著.日本伝統食品研究会編.『日本の伝統食品事典』.朝倉書店,P461~P468