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塩漬け

花

歴史、文化

塩漬け(塩蔵品)とは、食塩または食塩水を用いて原料を脱水し、貯蔵性を高めた保存食品である。さらに塩味を添加することで、適度な熟成を進め、風味や食感の品質を高めることができる。
人類における食塩の使用は、有史以前にさかのぼると言われている。日本における製塩は、縄文時代後期から晩期前半にさかのぼる。縄文時代には土器製塩が行われていたとされ、弥生時代には各地で製塩が行われていたと伝わる。製塩の歴史とともに、塩蔵により貯蔵性を高める製法が日本各地に伝わった。塩蔵さけは、7世紀後半から租税の一つとして朝廷に献上されていた。しろさけ、べにさけ、ぎんざけなどが用いられていたようだ。筋子は平安時代から、塩数の子は室町時代から珍重されていたとされる。塩水漬けにしたいくらは明治末期に、ロシアよりその製法が伝えられた。
なお、製塩技術と塩蔵技術の発展に伴い、大量生産が始まったのは明治時代以降とされ、水産物を用いた発酵食品のバラエティーを生むきっかけとなった。
材料となる水産物は、さけ、ます、さば、たら、さんまをはじめ、さけやますの魚卵などが主たるものであり、内臓とえらを除いたラウンド状のもの、頭部と内臓を除去したもの、背または腹を割いた開き、フィレー、切り身などさまざまである。
塩漬けは、米飯を主食とする和食のおかずとして、また、嗜好(しこう)品として食卓を彩ってきた。

特徴、種類

以下、代表的な塩蔵品の特徴を紹介する。

<魚類塩蔵品>
魚類塩蔵品は、さけ、ます、たら、すけとうだら、さば、さんまなど、さまざまな魚類を塩漬けにした製品である。
塩蔵さけの場合、塩分量の多い塩引きさけと、塩分量の少ない新巻きさけに分けられる。
塩引きは数日から1~2週間をかけ、塩蔵期間が長い。新巻きは漁獲後に1~2日かけて塩蔵するもので製品の塩分量は比較的少ない。

<魚卵塩蔵品>
さけ、ますの卵巣を塩漬けにした筋子や、塩水漬けにした塩いくら、すけとうだらの卵を用いた塩たらこ、にしんの卵を原料とする塩数の子などがある。
塩蔵たらこを調味液に漬けたからし明太子や、塩数の子を醤油とみりんで調味した味付け数の子、醤油漬けのいくらなどが開発されている。 

<水産品の塩漬け(抜粋)>
 水産品の塩漬けは下記のようにさまざまな製品が存在する。

魚類塩蔵品 塩引さけ
新巻きさけ
塩ます
塩さば
塩たら
いわし
ほっけ
魚卵塩蔵品 筋子
塩いくら
塩たらこ
からし明太子
味付け数の子
その他 塩蔵くらげなど

製造方法

製法は大きく分けて、ふり塩漬け(散塩漬け)と、たて塩漬け(塩水漬け)の2つがある。

<ふり塩漬け>
原料に直接食塩をふりかけて塩漬けにする。原料の表面が常に飽和塩水によって覆われる状態となるため、脱水効果が大きい。
原料に対する食塩の浸透速度が速いため、塩蔵初期の品質劣化は起こりにくいが、食塩の浸透が不均一になりやすく、空気との接触があるために脂質の酸化が進みやすい。

<たて塩漬け>
原料を食塩水に漬け浸し、塩漬けにする。原料に対する食塩の浸透は均一となり、空気との接触もないため脂質の酸化は進みづらい。
塩漬けに容器が必要となること、食塩水の濃度を保つためにかくはんや食塩の添加作業が必要となる。
水の漏れない容器に散塩しながら原料を積み重ね、原料から浸出した水分で食塩を溶かし、飽和塩水状態で塩漬けを行う改良たて塩漬け法などもある。
一般的にさけ、ます、たらなどの大型魚にはふり塩漬けが用いられ、小型魚や魚卵を塩蔵する場合、または薄塩品の製造を目的とする際は、たて塩漬けが用いられる。

地域との関係性

塩蔵は漁獲物の一次処理として用いられる製法のため、原料漁獲地での加工が基本である。そのため北海道における生産量が多く、漁港近辺でその食文化が発展してきた。各地域で水揚げされる水産物の特性を生かし、伝統的な技術で製造された塩漬けは多岐にわたる。食塩のかわりに地域の特産調味料を用いた製品も開発されている。

参考文献

坂本正勝、滝口明秀、川﨑賢一、黒川孝雄著.日本伝統食品研究会編.『日本の伝統食品事典』.朝倉書店,P353~P369
江原絢子、石川尚子、東四柳祥子『日本食物史』吉川弘文館2009 p.41