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水産発酵食品

花

歴史、文化

四方を海で囲まれた日本では、海水魚、淡水魚を含めて約4,500種類もの魚類が分布している。これらの豊富な水産資源を元に、地域ごとの風土に根差した調理方法により多様な食品が生み出されてきた。その多様性を生み出した技術こそ「発酵」である。発酵は貴重な食材を保存する技術であり、長い年月をかけて先人たちが磨き上げてきた知恵の結晶である。
始めは腐敗を防ぐために食材を塩漬けにしていたところ、そのうちに塩漬けしていた魚が、元の味とは異なった風味を持つことがあるとわかり、そこから各種の塩辛や魚醤へと発展し、伝えられてきたと考えられる。平安時代の今昔物語集にはその記録が残っているとされるが、塩蔵はそれ以前から行われていたと考えられる。

また、新鮮な魚介が手に入りにくい山岳地帯では、食材を長く保存しておく必要があった。そこで考え出されたのが、塩漬けにした魚を米飯やぬかとともに漬け込み発酵させる方法である。日本には、中国や東南アジアの山岳地帯における魚の貯蔵法が稲作とともに伝来したとされ、その方法を現代に伝えるのが、日本海側の地域に多く伝わる「なれずし」である。
「なれずし」は魚を米飯とともに重しで圧し、長期間置いて乳酸発酵させたもので、その最古のものが、滋賀県に今も伝わる「ふなずし」であり、今日の寿司の先祖と考えられている。時代を経るにつれ、麹を用いた方法など発酵を早めるための工夫が凝らされ、やがて元禄時代の頃、ご飯に酢を合わせてそれと魚を漬けるという、発酵を経ない早ずしがつくられるようになった。これが今日の握りずしの始まりである。

特徴、種類

水産発酵食品は、発酵に関わる微生物の種類や製造法などから、大きく「塩蔵型発酵食品」「漬物型発酵食品」の2つに分類することができる。

<塩蔵型発酵食品>
代表的な食品として、塩辛、くさや、魚醤油(しょっつる、いしるなど)である。塩辛は、魚介類の肉や内臓を食塩で腐敗を防ぎながら、素材そのものが持つ消化酵素の作用により生臭さが消え、特有の風味が醸成される。いかの塩辛の他、かつおの内臓を使った「酒盗」、なまこの内臓を使った「このわた」、あゆの内臓を使った「うるか」、さけ・ます類の内臓を使った「めふん」、うにの塩辛などが各地に伝わっている。
くさやは、伊豆七島の新島や大島などに伝わる干物である。発酵した魚汁にむろあじやとびうおなどの魚を一晩漬けて乾燥させる。汁中の細菌により抗菌作用が付与されるとともに、強烈なにおいを発する。
魚醤油は魚介類を高濃度の食塩とともに一年から数年熟成させて製造される液体調味料である。かつて日本の広い地域でつくられていたが、大豆醤油の広がりとともに減少し、現在ではしょっつる(秋田県)、いしる(石川県)が伝わっている。

<漬物型発酵食品>
代表的な食品として、なれずし、ぬか漬けが挙げられる。
なれずしの中でも、最も古い形をとどめているとされるのが、滋賀県に伝わる「ふなずし」である。くさやと双璧をなすとも言われる強烈な臭いが特徴で、乳酸菌が多く含まれ、味はチーズに似たところがある。ふなの他にも、うぐいやはすなど、琵琶湖で取れる魚はほとんどがふなずしにされる。ふなずしの材料としては、さば、ぶり、さけ、にしん、はたはた、あゆなど多岐にわたる。
ぬか漬けは、いわし、さば、にしん、ふぐなどを塩蔵して、麹とともにぬかに漬け込んで熟成させたものである。有名なものに石川県に伝わる「ふぐの子ぬか漬け」がある。猛毒を持つふぐの卵巣を微生物の発酵により無害化したもので、製造までには数年かかる。
その他、塩漬けした魚介類を発酵調味料に漬け込む酢漬けや醤油漬けがある。酢漬けは、塩漬けした魚介類を食酢に漬け込むことで、抗菌作用と香味を有する食酢による保存技術として各地に伝わる。福井県の「こだいの笹漬け」、富山県の「ますずし」、岡山県の「ままかりの酢漬け」などがある。また、醤油を使った魚介類の漬物としては、北海道と東北地方に伝わる「松前漬け」が代表的である。

製造方法

代表的な魚醤油となれずしの製法を簡単に説明する。

<しょっつる>
秋田県に伝わる魚醤油。原料としてはたはたが有名であるが、いわしをはじめ、さまざまな魚種でつくられる。原料に対して約20%量の食塩をまぶし、汁が浸出し脱水した魚体を他のおけに移し、さらに塩をかける。浸出液は煮沸ろ過し、その中に魚体を入れ、重しをして漬け込む。一年から数年で魚体は液化し、これを煮沸後、数回ろ過して瓶詰めする。

<ふなずし>
滋賀県に伝わるなれずしの一種。琵琶湖で取れたふなを、うろことえら、浮き袋、内臓を除去し、えら部と内臓部に塩を詰め、おけに詰めて重しをし2か月以上漬ける。しっかり塩を当てないと生臭さが残る。その後、取り出した魚体を洗い、半日ほど日干しにしたあと、おけに冷ました白米とふなを交互に漬け込み重しをする。おけの水が下から上がってきたら、空気と遮断するため上に水を張る。時々水を交換し、半年から2年漬ける。

地域との関係性

水産発酵食品は全国各地に伝わっている。いかの塩辛は、北海道を中心とした東北地方、酒盗はかつおが原料であることから、かつおの産地である高知、静岡、鹿児島が中心である。なれずし文化は、特に日本海沿岸、なかでも北陸地方に多い。

サステナビリティ・SDGsへの貢献

かつおの内臓を使った酒盗は、もともとかつお節を製造する際の副産物である内臓を利用することで生まれた。塩辛は内臓を利用したものが多く、魚を余すところなく利用する先人たちの知恵のたまものである。また、魚醤油の一つ、しょっつるは、もともと食用として利用されていなかったはたはたを活用したものである。このように日本人は海の恵みを無駄にすることなく、また長期間保存するための知恵として、多様な食品を生み出してきた。これらの伝統食は食品ロスの削減という視点からも、極めて現代的な側面を持っている。(14 海の豊かさを守ろう)

参考文献

藤井健夫、小西文子、神崎和豊、望月聡、吉岡武也、赤羽義章、原田和樹、島田達雄、川崎賢一、矢野俊博、堀越昌子、刈谷泰弘、玉置ミヨ子、久田孝、塚本研一、加島隆洋、西川清文、森真由美、佐藤紀代美、著.日本伝統食品研究会編.『日本の伝統食品事典』朝倉書店,P472~P533