調味加工品
歴史、文化
調味加工品は、魚介類や海藻類を濃厚な調味液に浸し漬けにしたもの、またはこれを煮たり、乾燥させたりすることで、貯蔵性のある製品をつくる加工法でつくられたものをさす。調味液は主に醤油、砂糖、食塩である。濃厚な調味液による脱水作用と、煮たり乾燥させたりすることによる水分活性の低下、加熱殺菌により貯蔵性が高まる。
調味加工品の種類は多種多様である。つくだ煮の歴史は近世にはじまる。大阪・佃村の村民たちが江戸へ移住し、その製法を伝えたとされる。その後、昭和中期ごろにかけて製造量が増加し、日本各地にその食文化が広がった。
種類は調味煮熟品(つくだ煮など)、調味乾製品(みりん干し、ふりかけなど)、調味焙乾品(焼きアナゴ、裂きいかなど)、その他(焼きはまぐりなど)に分けられる。
調味加工品のほとんどは、近代以降に発展した食文化であり、多種多様な製品が存在する。
調味加工品の分類(伝統的調味加工品以外も含む) | |
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調味煮熟品 | つくだ煮、あめ煮、甘露煮、しぐれ煮、甘露煮、雀焼きなど これらはつくだ煮から変形したものと考えられる |
調味乾製品 | みりん干し(さくら干し)、儀助煮、ふりかけ、でんぶなど |
調味焙乾品 | 焼きアナゴ(蒲焼き)、裂きイカ、魚せんべい、調味タラ、姿焼きなど |
その他 | ウニ和え物、タイ浜焼き、焼きハマグリなど |
『日本の伝統食品事典』(日本伝統食品研究会編、朝倉書店)P372の図より
特徴、種類
調味加工品を3種類に分類し、概要を紹介する。
<調味煮熟品(つくだ煮など)>
つくだ煮の歴史は、大阪(当時は大坂)・佃村に始まる。漁師たちが小魚などを塩とともに煮たものを保存食としていたことが由来とされている。江戸時代以降、徳川家康の保護で、当地の漁師たちが江戸に移住したのを機に、江戸でのつくだ煮作りが本格化した。なお移住地は、佃村にちなみ、佃島と名付けられた。
現在さまざまな佃煮がご当地の名物として根付いており、保存性に加えて嗜好性の高い食品として全国で流通している。こんぶ、あさり、こうなご、のりなどが原料となる。
つくだ煮は、調味料の比率により、呼び名が異なる。砂糖や水飴を多用した甘露煮、生姜などで辛味を強くしたしぐれ煮、甘露煮と類似するも、醤油を使用せず、砂糖、水あめ、塩などで煮た甘みの強いあめ煮などがある。
<調味乾製品(みりん干しなど)>
みりん干しは、主に魚の頭、内臓、背骨を取り除いたものを開き、砂糖を主体とした調味液に漬け、乾燥させたものである。みりん干しは、桜の季節が製造に適していたこと、魚の開きを干した形が桜の花びら似ていることなどから、別名さくら干しともよばれる。
<調味焙乾品(焼きあなごなど)>
焼きあなごは、まあなごを開いて内臓を取り除き焼いたものを、調味液に漬けたものである。関西地方で主につくられており、地元での消費はもちろん土産品としても人気である。
製造方法
前項で紹介した調味加工品の3種類それぞれの製造方法の概要について紹介する。
<調味煮熟品(つくだ煮など)>
つくだ煮は、主に炒り煮、浮かし煮という2つの製造方法が存在する。炒り煮は、調味液へ事前に漬けてから加熱する製造方法である。煮崩れしづらく、調味液が浸透しにくいとされる海藻類や乾燥物などを加工する際の一般的な製造方法となる。
浮かし煮は、一度蒸煮した後に調味液に浸し弱火で煮込み、原料をすくいとる製造方法であり、魚介類など荷崩れを起こしやすいものを加工する際に重宝する製造方法である。
<調味乾製品(みりん干しなど)>
いわしのみりん干しは、主に凍結されたいわしを用い、解凍したいわしの頭、内臓、背骨を取り除き、開きにしたものを調味液に浸す。天日干しや機械乾燥、冷風乾燥を経て、つや出しに多糖類を塗布する。乾燥の最中にいりゴマなどを添加する。
<調味焙乾品(焼きあなごなど)>
焼きあなごは、あなごをまな板に固定し、包丁で開いて頭部、内蔵と背骨、えら等を取り除いた後、真水で洗浄し、竹串で串刺しを行う。調味液にくぐらせた後に炭火で加熱する。調味液にくぐらせるタイミングや調味液の材料はつくり手によりさまざまである。
地域との関係性
調味加工品のうち地域との関係性があるもの、製法や歴史が特徴的なものをいくつか紹介する。
<調味煮熟品(つくだ煮、甘露煮など)>
滋賀県琵琶湖岸では湖魚をタンパク源とする食文化が根付いている。朝獲れの魚を煮物にする習慣があり、あゆ、いさざ、もろこ、ごりなどの原料でつくだ煮をつくる。大豆を一緒に煮ることもある。
茨城県霞ケ浦湖岸では、わかさぎの佃煮がつくられる。加工業者が数多く存在し名産品となっている。
石川県ではふなやごりを原料としたつくだ煮がつくられている。特にふなを加工する際、あくを抜くことを目的に、調味液に浸す前にかごに詰めたふなを蒸気窯で沸騰させる特殊な製法が行われていた。これらは、ふなの雀煮とよばれていた。
北海道の名産品であるにしんの昆布巻きや、兵庫県の名産品いかなごのくぎ煮も佃煮の一種である。
<調味乾製品(みりん干しなど)>
主な生産地は千葉県、茨城県、富山県である。いわしが主な原料であるが、あじ、ししゃも、さば、はちめを用いたものも生産されている。主に関西地方、中部地方で消費されている。
<調味焙乾品(焼きあなごなど)>
兵庫県、大阪府、広島県など関西方面で生産されている。播磨灘が国内有数のあなごの産地であることから生まれた伝統食だと考えられる。手作業で炭火焼きにし、一つ一つ製造するのが伝統製法であるが、時代とともに近代化が進み、割裁機であなごを開き、ガスや電気ヒーターなどで加熱する製法もある。
串焼きをそのまま食す以外に、巻きずしやちらし寿司の具材としても使用される。
サステナビリティ・SDGsへの貢献
調味液に浸す、または調味液で煮るなど、調味を主とした嗜好性を付与しやすい製造方法から、喫食されていなかった食材や規格外の原料とすることが付加価値となり、その調味加工品に注目が寄せられている。だしに使用しただしこんぶや、かつお節、廃棄対象になることも多かったにんにくの芽などを原料としたものである。
(14 海の豊かさを守ろう、15 陸の豊かさも守ろう)
わが国においては長野県や岐阜県において伝統食であったイナゴの佃煮などをはじめとする昆虫も古来世界で喫食対象であり、その食文化の価値が見直されているところである。
(2 飢餓をゼロに)
参考文献
川﨑賢一、滝口明秀、野田誠司、堀越昌子、矢口登希子、神崎和豊、浅野昶、森俊郎、加島隆洋、岡弘康、伊藤雅子、上田智広、武田平八郎著.日本伝統食品研究会編.『日本の伝統食品事典』.朝倉書店,P371~P404