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飲料

花

歴史、文化

本ページでは、我が国の伝統的な飲料として、茶(緑茶)、甘酒の2種類を抜粋し紹介する。

茶はすでに奈良時代にもたらされていたという。鎌倉時代には禅僧たちの尽力で各地で栽培が始まり、禅宗の普及とともに、茶の飲用が広く普及した。また江戸時代には煎茶が広まり、幕末には茶の輸出も始まった。
しかし受容当初の茶は、中国からもたらされた固形茶「餅茶」であったと伝えられている。「餅茶」とは、茶葉を蒸して突き固め、乾燥させたものを焙ったもので、飲用の折、削って粉砕した茶を熱湯に入れ、沸かして飲んだとされる。塩を加えることもあったという。
その後、臨済宗の開祖である栄西が、粉末を湯に溶かす「抹茶」法を伝えた。また栄西は茶の効用や製法をまとめた『喫茶養生記』を著し、鎌倉幕府三代目将軍・源実朝に献上した。戦国時代には、千利休によって茶の湯が大成された。
世界に目を向けると、茶葉の発酵程度によって、不発酵の緑茶、半発酵のウーロン茶、発酵させた紅茶に分けられる。緑茶の生産は中国、次いで日本における生産量が多い。
日本における茶葉の生産量は、静岡県が2万5,200tで1位、次いで鹿児島県が2万3,900t、その後三重県、宮崎県と続く。(農林水産省「令和2年産茶の摘採面積、生葉収穫量及び荒茶生産量」)

甘酒は甘味が強く、栄養が豊富な発酵飲料である。名称に酒とあるが、アルコール分を含まない(もしくは極めて微量な)ため、酒類に該当しない。材料は極めてシンプルで、米と麹、もしくは酒粕(かす)を用いる。日本人の主食である米と、和食に欠かせない麹を活用した日本ならではの伝統的な飲料である。
発祥説は諸説あるが、奈良時代の『日本書紀』に記述されている天舐酒(あまのたむざけ)は米麹からつくられる甘い酒で、アルコール濃度が低く、現代の酒よりも甘酒に近かったと考えられている。砂糖の使用が一般的ではなかった江戸時代頃までは、甘味が得られる貴重な飲料であった。甘酒が庶民に広く飲まれるようになったのは江戸時代である。今日では冬や正月に飲むものというイメージがあるが、特に夏の飲み物として人気を集め、甘酒売りが町で多く見られたと言われている。「飲む点滴」と称されるほど栄養価が高く、人々は夏の暑さを乗り切るために甘酒を求めていた。

特徴、種類

飲料を茶(緑茶)と甘酒の2種類に分類し、概要を紹介する。

<茶(緑茶)>
日本国内では、異なる製茶法により、多彩な茶が各地で飲まれている。茶葉の特性により、香り、味、色合いなどの違いが楽しめる。緑茶には、煎茶、玉露、抹茶の他、かぶせ茶、玉緑茶、番茶などの種類がある。
煎茶は緑茶の代表格である。製法が確立したのが18世紀前半と伝わる。今も「茶」といえば、煎茶をイメージすることが多い。

<甘酒>
甘酒には2種類の製造法がある。一つは米麹を用いたもの、もう一つは酒粕(かす)を用いたものである。米麹でつくる甘酒を「麹甘酒」、酒粕(かす)でつくる甘酒を「酒粕(かす)甘酒」と呼び、区別する。麹甘酒は、米の主成分であるデンプンに麹菌がつくる酵素が作用してつくられる甘味が特徴の発酵飲料であり、酒粕(かす)甘酒は、酒粕(かす)をお湯で溶いて砂糖を加えたものである。酒粕(かす)は日本酒などの製造の際に出る副産物で、アミノ酸やビタミンを豊富に含んだ食材である。製造に発酵工程はないが、酒粕(かす)は清酒醸造の副産物であるため、酒粕(かす)甘酒は発酵飲料と言える。 

製造方法

前項で紹介した茶(緑茶)、甘酒、それぞれの製造方法を抜粋し紹介する。

<茶(緑茶)>
春の新芽を摘み、茶籠で手早く蒸す。これを一度冷ました後、熱を加えて乾燥させる。葉振るい、回転もみ、茶葉の解きほぐし、中もみなどの工程を経て、茶葉の形を整える。最後に仕上げもみと乾燥が行われ、煎茶ができあがる。
玉露は、煎茶の製造工程とほぼ同じであるが、新芽を育てるときに茶園に覆いを行い、日光を遮断して栽培される。低温の湯で成分を抽出するものが玉露とよばれる。
抹茶は文字通り、粉末を湯に溶いて味わう茶をさす。製造工程は、茶葉を蒸して乾燥させるシンプルなものであるが、茶葉の品質、蒸し方、乾燥方法などによって風味が異なる。

<甘酒>
麹甘酒は、ご飯に水と麹を入れてよくかき混ぜる。蓋をして55~60℃に保ちながら一晩寝かせる。途中で、かき混ぜることで発酵が促進する。
酒粕(かす)甘酒は、酒粕(かす)と水と砂糖だけでつくられる。沸騰したお湯に酒粕(かす)を入れて、弱火にしてよく混ぜる。酒粕(かす)が溶けたら、再び強火にして砂糖を加える。原料の酒粕(かす)には微量のアルコールが含まれているが、加熱するとアルコール成分が飛ぶ。

地域との関係性

茶(緑茶)、甘酒のうち地域との関係性があるもの、製法や歴史が特徴的なものをいくつか紹介する。

<茶(緑茶)>
埼玉県の狭山茶、静岡県の静岡茶、愛知県の西尾茶、京都府の宇治茶、徳島県の阿波番茶、福岡県の八女茶、佐賀県の嬉野茶、鹿児島県のかごしま茶など茶の産地とブランドは数え上げればきりがない。
我が国の伝統的な飲料といえる茶は製造に手間暇がかかり、茶葉の特性、使用する水質や温度によって、味わいが異なる。また、淹れ方によって、味わいにも変化が生じる。一方で、現在はさまざまな茶のペットボトル製品が販売されている。茶を飲む場所や機会によって、さまざまな形で茶文化を楽しむことが今後期待される。 

<甘酒>
 甘酒には、麹甘酒と酒粕(かす)甘酒それぞれの特性によって地域性がある。麹甘酒は、味噌や醤油など麹による発酵文化が根付いた地域で飲用される傾向がある。一方、酒粕(かす)甘酒は、酒粕(かす)が酒製造の際の副産物であることから、酒造メーカーが多い地域でつくられる傾向がある。酒粕は、酒造メーカーにより味わいが異なるため、それが甘酒の個性=地域性につながる。

サステナビリティ・SDGsへの貢献

緑茶の飲用時、茶葉は茶殻として、廃棄物となる。昨今では茶殻は肥料や飼料として有効活用されている。また茶殻を建材、樹脂、紙などの資源としてリサイクルする研究も進んでいる。
(12 つくる責任、つかう責任)

参考文献

堀井正治、中村羊一郎、加藤みゆき著.日本伝統食品研究会編.『日本の伝統食品事典』.朝倉書店,P153~P186