iconLanguage ▼

海藻製品

花

歴史、文化

海藻製品は、我が国において米、魚介類とならぶ伝統食である。日本近海に自生する海藻は1,500種類にも及ぶと言われる。その歴史は古く、大和朝廷時代には神事の供物としても重宝された。また、『大宝律令』では、海藻は租税対象でもあった。江戸時代になると、交通網の発達に伴い、コンブ、ノリ、ワカメ、テングサ、ヒジキ、フノリなどが全国に流通するようになった。乾燥品が軽量であったことも普及が進んだ要因の一つと考えられる。

海藻製品の製造方法は、海藻に海塩が付いたまま干す「素干し」、稲わらの灰や木灰をまぶした「灰干し」、乾燥前に蒸し煮をした「煮干し」、紙すきの技術を応用した「すき干し」、高濃度の塩分で漬けた「塩蔵」など、それぞれの原料の特性を考慮しさまざまな加工法が生まれた。いずれも保存性のみならず、風味を高める利点もある。
現在、わが国においては約50種類の海藻が食用とされている。海藻は、生息する水深と生育場所により特徴と色調に変化があらわれる。コンブ、ワカメなどの褐藻類、ノリ、テングサなどの紅藻類、アオノリやアオサなどの緑藻類がある。これらは、煮物や汁物、酢の物、和え物、寿司などの多彩な調理法で食されている。

特徴、種類

海藻製品を、3種類の海藻に分けて概要を紹介する。

<褐藻類(コンブ、ワカメなど)>
『続日本紀』(797年)によると、コンブは奈良時代には既に献上品として、朝廷に納められていたという。僧侶の供養料にも用いられ、当時は貴重品であった。また、江戸時代には松前藩(北海道)のコンブを敦賀港(福井県)で加工し、京都に運搬した記録が残る。加工品は黒とろろ、白とろろ、おぼろこんぶ、白板こんぶなどがあり、古くより日本人の食生活に根付いていたことが分かる。また、ひろめ(広布)やえびすめ(夷布)とも称され、古くより縁起物とされた。

ワカメも同様に、古代より献上品としての歴史が古く、産地が広く、採取量も多かったことから、中世以降には職人の給料として支払われていたという。

<紅藻類(ノリ、テングサなど)>
ノリは推古朝(7世紀)以来の名物と伝えられるが、ノリの名称自体は江戸初期に流布したとされる。江戸時代より養殖がはじまり、紙すきの技術を応用し、加工されたものは商品価値の高い品として扱われてきた。
煮溶かしたテングサを固めた「ところてん」も奈良時代に伝わったとされ、平安時代の市ではすでに「心太」という名で販売されていた。江戸時代には、乾燥テングサの技術が確立し、庶民の間食として普及した。 

<緑藻類(アオノリ、アオサなど)>
緑藻類(アオノリ、アオサ)は、江戸時代に広まったとされ、酢の物や汁物の具として食されてきた。
加工方法はシンプルで、採取したものをそのまま食すか、採取したものを水洗いし、天日乾燥するのが基本である。 

製造方法

海藻製品の加工は乾燥と塩漬けが主たるものであり、下処理として水洗い、切る、ゆでる、灰をまぶすなどシンプルな工程の下、加工される。原料は、塩、酢、稲わらや木の灰、米ぬか、大豆製品などといった身近な材料を利用することが多い。

地域との関係性

海藻製品のうち、地域独自の発展を遂げたものをいくつか紹介する。

<鳴門灰干しワカメ>
徳島県鳴門市周辺で製造される「鳴門灰干しワカメ」は、古くよりワカメの産地であったことから、製造販売を行うものが多く存在し、その技を競ってきた。こうした流れの中で、商品価値の高い特殊なものが生まれ、名産品となった。鮮やかな緑色が退色することなく、生鮮品のような弾力と歯切れの良さが特徴である。 

<寒天>
寒天は、テングサを煮溶かしたものを冷やし固めた「ところてん」を、干しあげたものである。形状により、細(糸)寒天や角(棒)寒天などに種別される。発祥は、江戸時代に京都伏見で本陣を営む美濃屋太郎左衛門が、夜間にところてんを屋外に置いたところ、冬季であったため凍結させてしまう失態に端を発する。しかし、太郎左衛門は、凍結したところてんが日中に解凍し、水分が抜けて干物になったことで、海藻の香りが少ない食材になることを発見した。この偶然の出来事を機に、黄檗山の隠元が「寒天」と命名したという逸話が残る。
その製造技術は摂津・丹波といった関西地方を中心に発展していった。 

<板アオノリ>
板アオノリは、スジアオノリを板状にして乾燥させる。この製法はわが国の食卓になじみ深い板ノリ同様の製法であるが、アオノリを板状に乾燥させる食品は全国的に見て珍しく、千葉県一帯でその食文化が伝わっている。
正月の雑煮には欠かすことのできない食材である。明治初期にウナギ漁の漁具にはりついたスジアオノリを乾燥させて売り出したのがはじまりとされる。 

サステナビリティ・SDGsへの貢献

海藻は生育の過程で光合成が行われ、炭素を吸収する。海洋生態系に蓄積される炭素は「ブルーカーボン」とよばれ、CO2吸収源対策の新たな選択肢として注目が寄せられている。
わが国では、2021年5月に「みどりの食料システム戦略」(農林水産省)が策定され、農林水産業の生産力向上と持続性の両立を中長期的な取組として推進することを掲げた。その具体的な取組の一つとして、海藻類によるCO2固定化を推進している。
環境にやさしい食材とされる海藻を使用した、さまざまな海藻製品の開発が進められている。
(13気候変動に具体的な対策を)

参考文献

坂本正勝、滝口明秀、川﨑賢一、黒川孝雄著.日本伝統食品研究会編.『日本の伝統食品事典』.朝倉書店,P557~P600
神崎宣武ほか編『日本文化事典』丸善出版 平成28年 pp186-187
本山荻舟『飲食事典』平凡社1968 pp414