豆類加工品
歴史、文化
「五穀豊穣」は五種類の穀物が豊かに実ることを意味するが、日本において「五穀」とは、米、麦、粟、豆、黍(きび)(または稗(ひえ)の説あり)を指す。日本において大豆は重要な作物であり、その利用の歴史も古い。中国で大豆の栽培が始まったのは、紀元前3000年頃。日本に伝来したのはほぼ2,000年前と推定される。
日本を含む東アジアや東南アジアでは、大豆は貴重なタンパク源として、その国独自の工夫によりさまざまな食品に形を変えて利用されてきた。日本の代表的な大豆食品としては、豆腐、油揚げ、ゆば、きな粉、豆乳、もやし、煮豆、さらには発酵調味料・食品として味噌、醤油、納豆が挙げられる。これらは日本人なら誰もがなじみのあるものばかりであり、大豆が日本人の食生活に深く根差したものであることがうかがえる。
特徴、種類
<代表的大豆加工品・豆腐>
豆腐は中国を発祥とし、仏教とともに日本に伝えられた。食文化を含むさまざまな文化、技術が伝えられた奈良時代と推定される。当初は貴族や僧侶などの階級の食べ物であり、庶民に身近なものになったのは江戸時代に入ってからとされている。現在では大きく「木綿豆腐」と「絹ごし豆腐」の2種類がある。両者は舌触りや硬さ、含まれる栄養素に違いがある。木綿豆腐は製造工程で水分を絞るため適度な硬さがあり、大豆の成分が凝縮されるため、たんぱく質、脂質、カルシウム、鉄、食物繊維などが絹ごし豆腐よりも多く含まれる。一方、絹ごし豆腐は、水分を抜かないためやわらかな食感が特徴で、カリウム、ビタミンB群が木綿豆腐よりも多く含まれる。
沖縄に伝わる「島豆腐」は、木綿豆腐の一種で、一般の木綿豆腐よりさらに硬く締まった豆腐である。
<豆腐から生まれる加工品>
豆腐は水分が多く壊れやすく、また、腐敗しやすい。これを油で揚げたり乾燥させたりすることで、取り扱いやすくなり、保存性も増すとともに、味や食感が変わる。
豆腐を油で揚げたものとして、油揚げ、厚揚げ、がんもどきがあり、豆腐を乾燥したものが、凍り豆腐である。豆腐を凍らせて乾燥させたものだが、凍結させることで豆腐の組織が変化し、元の豆腐とは異なる独特の食感を持つ食品に変わる。関西地方では「高野豆腐」、東北地方では「しみ豆腐」など、さまざまな呼び名がある。
ゆばは「湯葉」や「湯波」と表記される。豆乳を加熱し続けたときに表面にできる皮膜であり、豆乳のすべての成分が凝固した大豆のみを原料とした食品である。そのまま生ゆばとしても食べられるが、乾燥、成形した食品もある。
<大豆発酵食品>
大豆を利用した発酵食品といえば納豆である。納豆には糸引き納豆と、塩辛納豆がある。糸引き納豆は煮大豆を納豆菌で発酵させた無塩大豆食品。一方、塩辛納豆は、浜納豆や寺納豆と呼ばれるもので、煮大豆に麹菌を植え付けた大豆麹を食塩水に漬け込み乳酸発酵させた後、乾燥させたものである。
製造方法
豆腐は大豆を粉砕して水とともに加熱した後、繊維などの成分を「おから」として除き、得られた豆乳を凝固剤で固めたものである。木綿豆腐は、豆乳に凝固剤を加えて一度固めたものを崩してから、型箱に入れて圧力をかけて水分を絞り、再び固めたもの。一方、絹ごし豆腐は、木綿豆腐よりも濃い豆乳に凝固剤を加えて、そのまま固めたものである。
油揚げは薄く切った豆腐を油で揚げて表面を乾燥させる。厚揚げは厚めに切った豆腐を、高温で一気に揚げたもので、内部は豆腐がそのままの形で残っている。がんもどきは豆腐を崩してから、野菜などの具を入れて混ぜ合わせ、成形して油で揚げたものである。
地域との関係性
中国から伝わった豆腐は、もともとは沖縄の島豆腐や、石川県白山市、富山県五箇山市、徳島県祖谷地方などに伝わる堅豆腐のような硬い豆腐だったと考えられる。次第に口当たりのよい滑らかな豆腐を目指し、製造法が工夫され、現代の絹ごし豆腐が生まれるに至った。その他、豆腐を藁苞(わらづと)に入れて巻き締めて湯で煮た豆腐が、つと豆腐(福島県)、こも豆腐(茨城県)、すまき豆腐(岡山県)、すぼ豆腐(熊本県)など各地の名前で伝わり、行事食として食べられてきた。
秋田県と長崎県には、崩した豆腐に調味料とつなぎのデンプンを加え、そこに砂糖やすり身を加えて成形した豆腐カステラ(秋田県)、豆腐かまぼこ(長崎県)が伝わる。
サステナビリティ・SDGsへの貢献
食のサステナビリティが求められる中、植物由来のタンパク源として大豆に寄せられる期待は大きい。昨今、「大豆ミート」が注目を集めているが、豆腐や納豆などの日本の大豆加工品は、食肉が一般的ではなかった時代から貴重なタンパク源として食べられてきた。(13 気候変動に具体的な対策を)
参考文献
堀井正治、橋詰和宗、渡辺研、伊藤寛、白川武志著.日本伝統食品研究会編.『日本の伝統食品事典』朝倉書店,P51~P82