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醤油、味噌、その他調味料

花

歴史、文化

料理にとって不可欠なのが、調味料である。味の五大要素である甘味、塩味、苦味、酸味、うま味を演出し、食材の持ち味を引き出す調味料は、国や地域による多彩さが魅力であり、それぞれの土地に根付いた長い歴史もある。
日本人の食生活になじみ深い調味料には、味噌、醤油、酢、みりんなど穀物由来の発酵調味料が挙げられる。これらの調味料に、わさびやからし、しょうが、さんしょうなどを薬味として添えることで、独特の風味や季節感を楽しむ食文化をつくり上げてきた。
発酵食品の豊かな日本に欠かせない調味料が、塩である。7世紀頃になると、砂浜に巨大な塩田をつくり、大量の塩を得る製法が確立する。塩の誕生は調味料としての活用とは別に、腐敗から食材を守る保存料としての性質が応用され、味噌や醤油などの発酵食品を生み出す契機にもなった。
その他、薬味となるわさびやからし、しょうが、さんしょうなどの香辛料を調味料とともに利用する調理法も、自然豊かな日本ならではの発想である。これらの香辛料には抗菌・殺菌作用があり、自然が持つ機能性を生かすことで、刺身など生のものを食べる日本独自の食文化を育んできたのである。

特徴、種類

以下、代表的な調味料の特徴を紹介する。

<味噌>
日本を代表する塩蔵発酵調味料で、天智天皇5年(666年)に高句麗から伝わったとの説がある。また、『正倉院文書』には末醤・末蘇、『倭名類聚抄』には未醤の記述がみえる。中世には大豆の生産量が増え、寺院のみならず、農村でも自家製味噌をつくるようになった。
味噌は蒸煮(じゅうしゃ)した大豆に麹、食塩を混ぜ、発酵、熟成させてつくる。麹は、米、麦、大豆を原料としてつくられ、米麹の場合は米味噌、麦麹の場合は麦味噌、豆麹の場合は豆味噌、と3種類に分類される。その他、塩分量によって米味噌は甘味噌(白、赤)、甘口味噌(淡色、赤)、辛口味噌(淡色、赤)の3種類、麦味噌は甘口味噌(淡色)、辛口味噌(赤)の2種類がある。なお、色の違いは熟成時間の違いによって生じるものである。

<醤油>
醤油は、和食に欠かせない発酵調味料である。中国から伝わった「醤(比之保=ひしお)」(食材を塩で発酵させた食品。穀醤や肉醤などがある)が原形とされる。古くは『大宝律令』(701年)にさかのぼることができ、大豆を原料とする「醤」がつくられた記録がある。鎌倉時代には、信州の禅僧覚心が中国より径山寺みそをもたらし、溜(たまり)醤油の原形となった。なお、現在のような醤油となったのは、室町時代末期と伝えられる。また、醤油という名称は、『易林本節用集』(1597年)に初めて登場する。
醤油は原料と塩分量、熟成期間等の条件により、その風味や色合いにより、5種類(濃口(こいくち)醤油、淡口(うすくち)醤油、溜(たまり)醤油、再仕込(さいしこ)み醤油、白(しろ)醤油に分けられる。

<酢>
食酢は人類最古の調味料とされる。収穫した穀物や果実を保存しておく過程で、発酵が進むと酒になり、さらに置いておくと酸味に変わることを知った人類は、それを食酢として利用するようになった。日本における歴史も古く、応神天皇の頃、日本に伝わったとされる。また、『大宝律令』(701)には、酒、甘酒、酢等をつくる造酒司が官職に定められている。江戸時代後半には、酒粕(かす)からつくる「粕酢」が考案されると、味の相性や米酢よりも安価であったため、江戸前ずしの流行とともに広まっていった。

<みりん>
酢と同様に酒の醸造方法を応用してつくられ、原料として米麹に蒸したもち米、焼酎などの蒸留酒を用いるのが特徴である。その起源には、室町時代初期に飲まれていた練酒という甘い酒であるとする説と、明時代の中国で飲まれていた蜜酒、蜜淋であるとする説がある。江戸時代に入り、焼酎を用いた糖分の多いみりんの製造技術が確立すると、次第に調味料としても使われるようになった。
甘味の付与のみならず、調味成分の浸透性向上、料理のてり・つやの付与、煮崩れ防止、消臭などの調理効果からも、日本料理に欠かせない調味料である。

<その他の調味料>
塩、砂糖に加え、わさび、さんしょう、からし、こしょう、とうがらしなどの香辛料も、日本の調味料としての歴史は古い。辛味や香りを楽しむ効果のほか、食材の腐敗防止や臭み取りなどに活用される。ここでは主要なものを紹介する。

<砂糖>
ショ糖を主成分とする甘味食品で、沖縄県や鹿児島県などで栽培されるさとうきびや、北海道で栽培されるてんさいから製造される。日本への伝来は遣唐使の時代とされ、しばらくは高価な薬用品として認知されていた。その後、茶の湯の流行とともに、徐々に菓子にも使用されるようになる。しかし料理に砂糖が使用されるようになったのは、近代以降である。また、食品の保存性を高めることから、副原料として用いられることも多い。果実の砂糖漬けやジャム類、パンや菓子類など幅広い用途がある。

<わさび>
アブラナ科の植物で、日本の固有種である。鼻に抜ける爽やかな辛味が特徴とされ、和食のなかでも刺身に欠かせない香辛料である。殺菌作用があり、生食との相性が良い。平安時代にはすでに香辛料として利用されていた記録が残る。江戸時代に入り、わさびは握り寿司や刺身、そばとの組み合わせによって普及し、庶民に広く親しまれるようになった。

<さんしょう>
柑橘(かんきつ)系の香りで、しびれるような辛みと刺激が特徴。果皮を乾燥させ、粉末にしたものが多い。蒲(かば)焼きや照り焼きなどのこってりとした料理にふりかければ、爽やかさが増す。また、若葉は、薬味として使われる。 

製造方法

<味噌>
蒸煮した大豆に米麹を塩とともに混ぜる。この時、空気を遮断して詰める。塩によって雑菌は抑制されつつ、麹菌のでんぷん分解酵素によって、米のでんぷんは糖分に分解される。また、麹菌のたんぱく質分解酵素によって、大豆のたんぱく質はうま味の元であるアミノ酸に分解される。次に、糖分を栄養にして乳酸菌が乳酸をつくり、酵母はエタノールをつくりながら増殖する。熟成期間は数日から2年に及ぶものまでさまざまであり、風味や味わいに違いが出る。

<醤油>
大豆、米、麦等の穀類を原料とし、それらを蒸煮したものに、麹と食塩水を混ぜて発酵、熟成させる。「コウジカビ」がうま味成分を生成した後、乳酸菌と酵母が醤油特有の香気成分をつくり出す。日本人独自の繊細な発酵技術により生み出された調味料である。

<酢>
米を原料としてまず清酒をつくり、これに酢酸菌膜を張らせて酢酸発酵させる。清酒製造で生じる副産物である「酒粕」を原料につくられる穀物酢は、「粕酢」と呼ばれる。酒粕を、一定期間熟成させた後、加水し酢酸菌膜を移植して静置発酵すると粕酢となる。

<みりん>
蒸し米と米麹を焼酎に仕込み、20~30℃で40~60日間の糖化・熟成後、圧搾、滓(おり)下げ、ろ過の後、さらに数か月間貯蔵を行うことで醸造される。

地域との関係性

味噌・醤油には、使用する原料や麹の種類、熟成期間、さらには地域における嗜好(しこう)性の違いなどによって、数多くの種類が生まれている。ここでは、味噌と醤油における地域的特性について紹介する。

<味噌>
味噌には「米味噌」、「麦味噌」、「豆味噌」、および「調合味噌」があり、これらは「普通味噌」に分類される。「米味噌」は麹と塩の使用量の違いで、甘味噌、甘口味噌、辛口味噌の3種類に分類される。
「甘味噌・白」は冴えた淡黄白色で、米麹に由来する風味を生かしている。京都の「西京味噌」、「讃岐味噌」(香川県)、「府中味噌」(広島県)がよく知られている。
「甘味噌・赤」は、「江戸甘味噌」に代表される赤褐色でつややかな光沢があり、麹と大豆の香ばしさが融和して独特の風味を醸し出す。
「甘口味噌」は、静岡の「相白(あいじろ)味噌」、徳島の「御膳(ごぜん)味噌」がよく知られ、瀬戸内海沿岸でもつくられる。
「辛口味噌」は醸造期間が長い味噌で、米味噌の中で最も多くつくられる。「信州味噌」「仙台味噌」などが代表的である。
「麦味噌」は田舎味噌と呼ばれ、九州、四国、中国地方や関東の一部などに限られている。
「豆味噌」は米や麦は使用せず、原料である大豆の全量を麴にする。濃赤褐色で独特の香りを放ち、こくのある濃厚なうま味とわずかな渋味を呈する。愛知、岐阜、三重の3県に限ってつくられており、八丁味噌、名古屋味噌、三州味噌、たまり味噌などの呼び名がある。

味噌の
種類
味や色による
分類
麹の
割合
食塩
濃度
主な
産地
米味噌 甘味噌 15~30 5~7 近畿地方、中国地方、瀬戸内
12~20 5~7 東京
甘口味噌 淡色 8~15 7~12 静岡、九州
10~15 11~13 徳島、その他
辛口味噌 淡色 5~10 11~13 関東甲信越、北陸、その他全国各地
5~10 11~13 関東甲信越、東北地方、その他全国各地
麦味噌 甘口味噌 15~25 9~11 九州、中国地方日本海沿岸
辛口味噌 8~15 11~13 九州、四国、関東北部
豆味噌 全量 10~12 中京(愛知、三重、岐阜)

『日本の伝統食品事典』(日本伝統食品研究会編、朝倉書店)P249の図より

<醤油>
現在、日本に流通している醤油は、大別して5種類ある。濃口(こいくち)醤油、淡口(うすくち)醤油、溜(たまり)醤油、再仕込み醤油、白醤油である。
全国でつくられている醤油の中で、8割以上を占めるのが、東日本を中心に普及した濃口醤油である。香りが高く、魚や肉の生臭さを消す働きがある。
淡口醤油は、色の薄い醤油で、主に関西で発達し、素材の味と色を生かす上方料理で活用されてきた。製造工程で、色の濃化につながらないような工夫がなされている。
溜醤油は東海地方のみで使われる。味が濃厚で独特の香りがある。刺身や蒲焼用たれとして、米菓、佃煮、麺類の味付けとして用いられる。
再仕込み醤油は山口県や九州地方などの一部で製造され、生産量も少ない。塩分濃度は低めだが、味、色ともに濃厚で粘稠(ねんちゅう)性があり、寿司、うなぎのたれ、刺身用のつけ醤油などに用いられる。
白醤油は、淡口醤油よりも色が淡いのが特徴で、主に愛知県でつくられている。うまみやこくは控えめだが、麹の香りと甘味が強い。

種類 製造法・特徴 地域
濃口醤油 等量の大豆と小麦で醤油麹をつくり、食塩水に浸して発酵させる。発酵・熟成期間は約8か月。 全国
淡口醤油 大豆と小麦を醤油麹の原料とし、味をまろやかにするために甘酒を添加。小麦は浅く炒り、塩分濃度を高め発酵・熟成をゆるやかにするなど、製造工程で色の濃化を抑える工夫を凝らしている。 関西地方
溜醤油 原料は大豆とごく少量の小麦。大豆をつぶして、味噌玉をつくって麹とし、少量の食塩水で発酵させる。濃口醤油よりも熟成期間が長い。 東海地方(愛知県、岐阜県、三重県)
再仕込み
醤油
等量の大豆と小麦で醤油麹をつくり、食塩水の代わりに生揚げ(きあげ)醤油で仕込み、長期熟成する(1.5~2年以上)。 山口県、山陰~九州地方
白醤油 小麦9に対し、1程度の大豆を加えて醤油麹とし、食塩水で仕込む。発酵・熟成は約3か月。着色に繋がる工程は行わないか、ごく短期間で済ませる。 愛知県

サステナビリティ・SDGsへの貢献

2013年に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されて以来、和食文化への関心が高まり、特にその根幹を成す醤油、味噌などの発酵調味料への注目度が高まりつつある。発酵によって生み出される独自のうま味だけでなく、味噌や酢が有する豊かな保健的機能性もまた健康維持に欠かせない魅力として評価を集めている
(3 すべての人に健康と福祉を)

参考文献

小泉幸道、橋本壽夫、山本泰、田中秀夫、舘博、永島俊夫、吉本詩朗著.日本伝統食品研究会編.『日本の伝統食品事典』朝倉書店,P241~P282
『特別展 和食~日本の自然、人々の知恵 公式ガイドブック』朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション
NHKテキスト 趣味どきっ「きょうから発酵ライフ」2016年4-5月号
大塚民俗学会編『日本民俗辞典』弘文堂 p367
木村茂光他編『日本生活史辞典』吉川弘文館 2016 pp623-624