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漬物

花

歴史、文化

日本の漬物の歴史は古く、縄文時代にはすでに野菜の皮を塩漬けにしていたとされる。最初に記録として登場するのは、天平時代の木簡に記された「ウリの塩漬け」である。その後、平安時代の『延喜式』には酢漬け、醤(ひしお)漬け、かす漬けから、現代のたくあんの原形ともみられる「須々保利(すずぼり)」などの記録が残っており、現在の漬物の大半がすでにこの時代に完成されていたと考えられる。その後、江戸時代に入ると料亭や飯屋の増加に伴い、漬物業が生まれ、漬け方が載った書物も発行されている。
全国各地にご当地漬物が存在し、その数は600種類を超えるとも言われている。その理由は、漬け汁や漬け床の豊富さ、漬け込む材料の多彩さ、さらには、それらの漬け汁や漬け床に応じた漬け方の多様さにある。これらの掛け合わせにより無数の漬物が生まれることとなった。

特徴、種類

微生物が直接関与してできる漬物と、麹や味噌、醤油、酒かす、ぬかなどの発酵生産物を利用した二次的な発酵漬物の二種類がある。また、発酵していない漬物として梅干しや紅しょうが漬け、福神漬けなどの「浅漬」や「調味漬」など、醤油や酢などの調味液に短期間漬け込み、食材に味を染み込ませたものである。
漬物の代表的なものといえば「ぬか漬け」である。ぬかは玄米を精米する際に出る副産物であり、豊富な栄養を含んでいる。このぬかを元にして作ったぬか味噌に食材を漬け込むことにより、栄養素が吸着するとともに、発酵によって生成された新たな栄養素も加わるという知恵である。また、発酵することにより元の材料にはなかった風味が加わる。たくわんは大根をぬか味噌に漬け込んだ代表的漬物だが、漬け込む前と後の風味の違いは明白である。

たくわんと並ぶ代表的な漬物といえば「梅干し」。梅干しは塩漬けにした梅を干したもので、中国では2000年以上も前につくられていたほど歴史は古く、日本では鎌倉時代以降、武家社会の広がりとともに庶民の間に定着していった。 
食材を保存する技術である発酵により、多様な漬物が生み出されたが、製造技術の発達や食習慣の変化等の要因により、手軽に食べられる漬物の消費が増えている。 

分類 種類
塩漬け そのまま食べる製品としての塩漬けと、食材の保存方法としての塩蔵の二通りある。塩蔵食材は醤油漬け、酢漬けなどの調味料漬けに仕上げられる
・野沢菜漬け、高菜漬け、広島菜漬け、梅干し、キクの花漬け、桜の花漬け、など
醤油漬け 塩蔵野菜を脱塩・圧搾して醤油系調味液に浸漬して味付けをしたもの
・福神漬け、鉄砲漬け、印籠漬け、養肝漬け、日光のたまり漬け、日光巻き、など
味噌漬け 塩蔵野菜を味噌で漬けたもの
・味噌漬け(金婚漬け)、印籠漬け、養肝漬け、など
かす漬け 塩蔵野菜を酒粕で漬けたもの
・奈良漬、わさび漬け、山海漬け、守口漬け、など
麹漬け 野菜やブリ、鮭などの魚介類を、麹あるいは麹に糖類、みりん、香辛料を加えた材料に漬け込んだもの
・べったら漬け、三五八漬け、など
酢漬け 酢に漬け込んだもの。酢酸の抗菌性により微生物は繁殖できないため、発酵は起こらない特徴がある
・らっきょう漬け、しょうが漬け、千枚漬け、など
ぬか漬け 米の副産物であるぬかに漬け込んだもの
・たくあん漬け、いぶりがっこ、伊勢たくあん、日の菜漬け、寒漬け、山川漬け、ぬか味噌漬け、など
からし漬け 和辛子、米麹、酒粕などをあわせたものに漬け込んだもの
・こなす漬け、きゅうりのからし漬け、など
もろみ漬け 醤油の元となるもろみに漬け込んだもの。調味漬けの一種
・こなすのもろみ漬け、きゅうりのもろみ漬け、吉四六漬け、鉄砲漬け
その他 塩漬け類や調味漬け類に分類されないもの
・すぐき漬け、しば漬け、すんき漬け、飛騨の赤かぶ漬け、温海の赤かぶ漬け、伊予の緋のかぶら漬け、津田かぶ漬け、など

製造方法

漬物の製造方法には、大きく2つの加工工程がある。1つめは、漬物の基本である「塩漬け」である。野菜の塩蔵は通常、15%以上の塩分濃度で塩漬けにし、これにより微生物による腐敗を防ぎ保存性を高める。また塩漬けしている間に、野菜に付着している乳酸菌などが増殖して発酵風味が増す。2つめの工程は、塩蔵、下漬けした野菜をさらに醤油や酢漬けなどの他の調味料に漬ける調味漬けや、酒かすに漬けるなどの工程である。塩蔵同様、乾燥も食材を保存する技術である。乾燥させた大根をぬか味噌に漬け込んだ漬物が、たくわんである。 

漬物の製造法においては、塩蔵と乾燥を基本としながら、そこに調味料や発酵による風味付けを行うことでさまざまな種類がつくられる。また、漬け方にも古漬けなどの長期から、浅漬けなどの短期、漬け込む回数も1回から数回にわたって丹念に漬け込むものなど、さまざまであるのも大きな特徴である。

地域との関係性

漬物は各地の気候風土と大きく関係がある。東北や北陸など寒い地方では、冬の間に貴重な食材を保存する技術として発達し、その土地の食材を用いた種類が生み出された。一方、温暖な地域では、主食をおいしく食べるための手軽なおかずとしての性格が強く、地域によってその役割は異なる。
秋田県の「いぶりがっこ」は、冬の間晴天が続かず屋外で大根を干すのが難しいため、室内のいろりに吊り下げ乾燥させることによって、薫煙の香りとぬか漬け風味が合わさった独特の漬物となった。

長野県木曽町に伝わる漬物「すんき(酸茎)漬け」は、塩を使わない、独特の酸味をもつ漬物として知られる。海抜800mの高冷地に位置する木曽地域では、塩は貴重品であった。そのため、塩を使わず、地域の名産である赤かぶの茎と根の付け根に含まれる乳酸菌を発酵させたのである。
「奈良漬け」は平城京の時代から伝わる奈良県の伝統食。塩漬けしたさまざまな野菜(白ウリ、きゅうり、小型メロン、だいこん、セロリなど)を酒かすに漬けたかす漬けの一種である。酒かすを数回漬け替えることで、風味豊かな漬物となる。 

鹿児島県に伝わる「山川漬け」は、冬の間に十分に乾燥させた大根を、すのこを敷いた壺に少量の塩とともに敷き詰めてつくる。壺の底に大根からの滲出液が溜まるとともに、空気の流入による発酵が行われ、4か月ほどの発酵期間を経て、茶色のたくわんとなる。南国ならではの独特の知恵によって生まれた一品である。

サステナビリティ・SDGsへの貢献

漬物には、豊富な食物繊維や発酵により醸成される各種栄養分が豊富に備わっている。
喫食機会を増やすことで、健康的な食生活に寄与することが期待される。
(3 すべての人に健康と福祉を)

参考文献

前田安彦、宮尾茂雄、桑原秀明、太田義雄、橋本俊郎、菅原久春、阿久津智美、石川健一、松岡寛樹著.日本伝統食品研究会編.『日本の伝統食品事典』朝倉書店,P83~P152